2019/08/09

訪問診療で「できること」と「できないこと」

訪問診療をはじめとする在宅医療が普及してきました。多くの医療機関が「患者さんを待つ医療」から「患者さんの元へ行く医療」へ挑戦しています。しかし、今までの医療の常識から考えると医療設備の整った病院やクリニックへ行き、必要に応じた検査をした結果で投薬など治療を受けるイメージですよね。そのイメージを持っている人は、訪問医療など在宅医療に対して「しっかり治療できるのか」という不安な気持ちを抱くこともあるのではないでしょうか。そこで、今回は訪問診療で実際に「できること」と「できないこと」についてご紹介していこうと思います。

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訪問診療とは何か

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訪問診療とは、在宅医療の一つで、医師が患者さんの自宅や入居施設を定期的に訪問して診療を行う医療の形です。医療は大きく「外来医療」「入院医療」「在宅医療」の三つに分けられ、訪問診療はこの在宅医療に位置づけられます。 訪問診療は1986年に保険診療として認められましたが、それ以前から地域の医師によって「往診」という形で行われてきました。背景には、高齢化の進行や「最期は自宅で過ごしたい」という患者の希望の増加があります。高齢者だけでなく、予後不良の病気を抱える患者にとっても、在宅医療のニーズは高まっています。

訪問診療と往診の違い・歴史的背景

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訪問診療と往診は似た言葉ですが、保険診療上は異なる意味を持ちます。訪問診療は、定期的に自宅を訪問して医療を提供するものであるのに対し、往診は病状の急変など突発的な事態に対応する医療行為です。 訪問診療は時代とともに役割を変えてきました。1965年頃までは、感染症や脳卒中などの急性疾患に対して往診が行われていましたが、その後は入院医療が中心となりました。1990年代以降、平均寿命の延伸や超高齢化社会の到来により、介護保険と併用した在宅医療が広がり、現在では入院医療から在宅医療への移行が進んでいます。

訪問診療でできること

訪問診療では、在宅であっても多くの医療行為を行うことができます。問診や触診などの通常診療をはじめ、点滴薬剤の投与、カテーテル管理、経管栄養管理が可能です。 また、がんの緩和ケアや在宅での看取りにも対応でき、患者さんやご家族が自宅で最期を迎えたいという希望に応えることができます。予防接種やワクチン投与、血圧測定、酸素飽和度測定、血液検査、心電図検査、超音波検査などの各種検査も、診療所の体制によっては実施可能です。さらに、治療方針や日常のケア、介護保険に関する医療相談にも応じます。

訪問診療でできないこと・制限があること

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訪問診療には多くのメリットがありますが、できないことも存在します。自宅や施設を診療の場とするため、大掛かりな手術は行えません。また、CTやMRIなど大型医療機器を用いる検査も在宅では実施できず、必要な場合は連携医療機関での受診が必要となります。 さらに、入院療養中の外泊時には訪問看護の利用に制限があり、緊急対応や複数回の訪問が難しい場合があります。在宅医療では家族の協力が不可欠であり、家族も医療から離れられなくなるなどといった家族の負担が大きくなる点も課題の一つです。

まとめ

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訪問診療は「できないことが多い医療」と思われがちですが、実際には多くの医療行為やケアが在宅で可能となっています。一方で、手術や精密検査など、在宅では対応できない医療があることも事実です。 しかし、自費サービスや医療機関同士の連携を活用することで、「できないこと」を補いながら療養を続けることができます。訪問診療の目的は生活の質を向上させることです。ご自身やご家族の病状や生活状況に合わせ、訪問診療で何を任せるのが最適かを考えていくことが大切です。