2022/11/23
気分障害の一つである「うつ病」。そのなかの一つに、高齢者が罹患しやすい「老人性うつ」があります。 今回は、老人性うつについて、症状や原因、認知症との違い、対処法などをご紹介します。 「最近意欲がわかない」「やりたいことがない」などと感じている高齢者、「最近みていて元気がないから心配」などと感じている家族や介護者の人は、ぜひ参考にしてみてください。
老人性うつとは、高齢期に発症するうつ病のことを指します。うつ病自体はどの年代にも起こり得る病気ですが、高齢者の場合は認知症と症状が似ているため見過ごされやすく、気づいたときには悪化していることも少なくありません。有病率は地域差があるものの、高齢者の約8%にみられるとされ、決してまれな疾患ではないのです。
症状は一般的なうつ病と共通する部分が多く、不安感や焦燥感、不眠、疲労感、意欲低下、集中力低下などがみられます。ただし老人性うつでは、抑うつ気分そのものよりも、しびれやめまい、頭痛といった身体症状を強く訴える傾向があります。 また、心気妄想や罪業妄想、貧困妄想といった妄想が現れやすい点も特徴です。「自分は不治の病だ」「周囲に迷惑ばかりかけている」「お金がなくて生きていけない」といった思い込みが、現実味を帯びて語られることがあります。これらは単なる心配ではなく、病的な思考の変化である可能性があります。
原因は大きく環境的要因と心理的要因に分けられます。定年退職や子どもの独立、転居などによる生活環境の変化、人との交流機会の減少といった環境の変化は、大きな影響を与えます。長年仕事中心に生きてきた人ほど、退職後の時間の使い方に戸惑い、孤立しやすくなることもあります。 心理的要因としては、配偶者やペットとの死別、慢性疾患の発症や悪化などが挙げられます。とくに近しい存在との喪失は、深い悲嘆と孤独感を生み、回復までに長い時間を要することもあります。
老人性うつは認知症と混同されやすいものの、いくつかの違いがあります。認知症は多くの場合ゆるやかに進行しますが、老人性うつは何らかのきっかけを境に比較的急に症状が現れることがあります。 また、認知症では進行とともに病識が薄れていく傾向がありますが、老人性うつでは本人に症状の自覚があり、「自分はだめだ」と強い自責の念を抱くことが少なくありません。物忘れがあっても、うつの場合はそれを強く気にして落ち込むのに対し、認知症では自覚が乏しくなります。 さらに、抑うつ気分の強さや日内変動、受け答えの遅さなども手がかりになります。こうした違いに周囲が気づくことが、早期対応につながります。
老人性うつは予防が可能であり、発症しても適切な治療により回復が期待できます。予防には、やりがいのある趣味や社会参加の機会を保つこと、他者との交流を絶やさないことが重要です。バランスのよい食事と適度な運動も、脳内の神経伝達物質の働きを整えるうえで役立ちます。 治療は薬物療法、環境調整、精神療法の三本柱で進められます。抗うつ薬の使用にあたっては、他の持病や服薬との相互作用を慎重に確認する必要があります。家族は責めるのではなく、安心できる環境を整え、無理のない形で社会との接点を保てるよう支援することが求められます。
老人性うつは高齢者に決して珍しくない疾患であり、身体症状や妄想を伴うこと、認知症と見分けにくいことが特徴です。しかし、早期に気づき、医療や周囲の支援につなげることで、重症化は防げます。日々の生活の中で小さな変化に目を向け、孤立を防ぎ、安心できる関係性を築くことが何よりの予防となります。高齢期の心の不調は「年のせい」と片付けず、適切に向き合うことが大切です。
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